採卵に向けて身体を整えるとき、多くの方が気にするのは卵巣や子宮、ホルモン値ではないでしょうか。
もちろん、どれも大切です。
ただ、私は日々患者さんの身体を診る中で、卵巣だけを見ていても分からないことがあると感じています。
その一つが、肝臓のある右の肋骨周辺です。
採卵を繰り返している方や、卵子の質について悩んでいる方に触れると、右のみぞおち周辺が硬くなっていることがあります。
今回は、採卵や卵子の質と肝臓について、医学的に分かっていることと、私が臨床で感じてきたことを分けてお話しします。
採卵・卵子の質と肝臓は関係するのか
最初に、誤解のないようにお伝えしておきます。
「右のみぞおちが硬いと卵子の質が下がる」と、医学的に証明されているわけではありません。
肝臓を整えれば、必ず採卵結果が良くなるという意味でもありません。
一方、肝臓は栄養素の代謝、糖や脂質の調整、薬物の処理など、身体を維持するための多くの役割を担っています。
妊活中に使用するホルモン剤を含め、体内に入った薬の代謝にも関わる臓器です。
近年は、脂肪肝などの代謝状態と女性の生殖機能との関連を調べる研究も出てきました。
ただし、肝臓の状態が卵子の質へ直接どの程度影響するかは、まだ十分に解明されていません。
私は「肝臓だけが原因」と考えているのではなく、卵子が育つ身体全体の環境を確認する一つの場所として見ています。
採卵・卵子の質と肝臓を考えるときに見る場所
肝臓は、身体の右側にあります。
位置としては、右の肋骨の内側から、みぞおちの右側にかけてです。
採卵に向けて来院される方の身体に触れていると、この周辺が硬く感じられることがあります。
右側だけ呼吸が浅い。
右の肋骨が動きにくい。
右肩や右の肩甲骨周辺が張っている。
こうした左右差が重なっている方もいます。
ただし、右肩が痛いから肝臓が疲れている、と単純には判断できません。
肩の痛みの多くは、筋肉や関節、姿勢などが関係しています。
胆石など一部の内臓疾患で右肩に関連痛が出ることはありますが、通常の肩こりと内臓由来の痛みを自己判断で区別するのは困難です。
私が見ているのは、一つの症状ではありません。
呼吸、肋骨の動き、腹部の緊張、背中の硬さ、疲労状態などを合わせて確認します。
採卵・卵子の質と肝臓について感じてきた共通点
私が長く患者さんを診ていて感じるのは、身体が疲れきっている方ほど、ご自身の疲れに気づきにくいということです。
「特に疲れていません」
「痛いところはありません」
そう話していても、身体に触れると、呼吸が浅く、お腹や背中が強く緊張していることがあります。
長期間緊張した状態が続くと、それが本人にとっての普通になります。
硬さや疲労を感じなくなっている可能性もあるでしょう。
採卵周期は、通院、注射、服薬、仕事、家事に加えて、採卵結果への不安も重なります。
身体だけでなく、気持ちにも負荷がかかる時期です。
だからこそ私は、卵巣だけでなく、身体全体に余力が残っているかを見るようにしています。
その中で、右のみぞおちや肋骨周辺に特徴的な硬さがある方が少なくない。
これは医学的に確立された診断基準ではなく、あくまで当院で患者さんを診てきた中で感じている臨床上の傾向です。
採卵・卵子の質と肝臓を意識したセルフケア
ご自宅では、右のみぞおち周辺に優しく手を当てる方法があります。
大切なのは、強く押さないことです。
右のみぞおちから肋骨の下あたりに、手のひら全体をそっと当てます。
「押す」というより、手で包むような感覚です。
もう片方の手は、同じ高さの背中側に当てます。
身体を前後から柔らかく挟むように、手を添えてください。
力はほとんど必要ありません。
そのまま、ゆっくり呼吸します。
息を吐いたときに、肋骨やお腹が自然に緩むのを待ちます。
強く揉んだり、肋骨の内側へ指を押し込んだりする必要はありません。
痛みを我慢して行うセルフケアでもありません。
30秒から1分ほどでも十分です。
何かを無理に変えようとせず、呼吸に合わせて手を置く。
そのくらいの優しさで行ってください。
強く押すほど肝臓が元気になるわけではありません
セルフケアで触れているのは、肝臓そのものではありません。
皮膚、筋肉、肋骨、呼吸に関係する周辺組織に手を添えています。
強く刺激すれば肝機能が改善する、卵子の質が上がるというものではありません。
また、このセルフケアは不妊治療や肝臓病の治療に代わるものではありません。
右上腹部の強い痛みが続く場合や、発熱、吐き気、皮膚や白目が黄色くなる、尿の色が濃くなるといった症状がある場合は、セルフケアを続けず医療機関へ相談してください。
採卵周期に腹痛や強い張りが出た場合も、まずは治療中のクリニックへ連絡することが優先です。
35歳を過ぎた採卵で大切にしたいこと
35歳を過ぎると、「時間がないから、何かをしなければ」と思う方が増えます。
サプリメントを増やす。
運動を増やす。
身体に良いと言われたものを、次々に試す。
もちろん、必要なこともあります。
しかし、すでに頑張りすぎている身体に、さらに課題を増やすことが正解とは限りません。
卵子を育てているのは、卵巣だけではありません。
食べたものを消化し、必要な栄養に変え、血液を巡らせ、ホルモンや薬を処理する。
身体全体が関わっています。
私は採卵前の患者さんを診るとき、数値だけでは分からない身体の余力を確認します。
右のみぞおちの硬さも、その一つです。
卵巣だけでなく、卵子が育つ身体全体を見る
採卵結果が思うようにいかないと、卵巣の機能や年齢だけに原因を求めたくなるかもしれません。
けれども、身体は部分ごとに分かれて働いているわけではありません。
睡眠、食事、血糖、疲労、呼吸、筋肉の緊張、薬の影響。
さまざまな要素が重なり合っています。
肝臓の周辺を見ることも、その身体全体を理解するための一つの視点です。
「肝臓を治せば卵子の質が上がる」という単純な話ではありません。
それでも、卵巣以外に目を向けることで、今まで見えていなかった身体の負担に気づけることがあります。
採卵に向けて何をすればよいか分からなくなったときは、何かを足す前に、まず身体が無理をしていないか確認してみてください。
妊娠する力を無理につくるのではなく、本来持っている力を発揮しやすい環境へ戻していく。
美浜鍼生堂では、そのために卵巣だけでなく、身体全体を丁寧に見ています。
※本記事は、一般的な情報と当院における臨床上の見解をお伝えするものです。特定の疾患の診断や治療効果を保証するものではありません。腹痛や体調不良がある場合は、医師へご相談ください。